生物学的製剤を検討する前に知りたい:お子さんのアトピー性皮膚炎の重症度評価と治療選択の基準
お子さんのアトピー性皮膚炎の治療を進める上で、医師から「重症」という言葉を聞くことがあるかもしれません。アトピー性皮膚炎の重症度を正確に把握することは、適切な治療法を選択するために非常に重要です。特に、比較的新しい治療選択肢である生物学的製剤を検討する際には、この重症度評価が大きな判断基準の一つとなります。
このページでは、アトピー性皮膚炎の重症度がどのように評価されるのか、そして生物学的製剤がどのような基準で治療選択肢となるのかについて、分かりやすく解説します。
なぜアトピー性皮膚炎の重症度評価が大切なのでしょうか?
アトピー性皮膚炎の治療は、症状の程度(重症度)によって段階的に進められるのが一般的です。軽症であれば外用薬での治療を中心に、中等症、重症と進むにつれて、より効果の高い治療法が検討されます。重症度を正確に評価することで、現在のお子さんの状態に最も適した治療法を見つけ、効果的な治療計画を立てることができます。
また、重症度を客観的に評価することは、治療の効果を判定する上でも役立ちます。治療開始前に比べて、症状がどの程度改善したのかを数値や基準で確認できるため、治療がうまくいっているか、あるいは他の治療法を検討すべきかを判断する根拠となります。
アトピー性皮膚炎の重症度はどのように評価されるのでしょうか?
アトピー性皮膚炎の重症度評価には、医師が行う様々な方法があります。視診による皮疹の広がりや炎症の程度、かゆみなどの自覚症状、そして日常生活への影響などを総合的に判断します。
具体的な評価方法としては、以下のようなスケールが国内外で広く用いられています。
- EASI (Eczema Area and Severity Index): 体の各部位(頭頸部、体幹、上肢、下肢)における皮疹の広がりとかゆみ・紅斑・丘疹/浸潤・苔癬化などの炎症の程度を点数化する指標です。
- SCORAD (Scoring Atopic Dermatitis): EASIと同様に皮疹の面積と程度を評価するとともに、かゆみや睡眠障害といった症状、そして日常生活への影響度も加味して点数化する指標です。
これらの評価スケールを用いることで、医師はアトピー性皮膚炎の状態を客観的に数値として捉えることができます。一般的に、これらの評価スケールで一定以上の点数となる場合や、皮疹が体の広い範囲に及んでいる場合などに、「中等症」や「重症」と判断されることが多くなります。
また、これまでの治療(例えば、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬、カルシニューリン阻害薬など)を適切に行っても、症状が十分にコントロールできない状態であるかどうかも、重症度や治療の難渋度を判断する上で重要な要素となります。
生物学的製剤が治療選択肢となる基準とは?
生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の病態に関わる特定の物質(サイトカインなど)の働きをピンポイントで抑えることで、強い炎症やかゆみを抑制する注射薬です。日本では、既存の治療で十分な効果が得られない中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対して保険適用となっています。
具体的な生物学的製剤が治療の選択肢となる主な基準は以下の通りです。
- 重症度: EASIやSCORADなどの客観的な評価スケールで「中等症」または「重症」と判断される状態であること。あるいは、医師が視診や症状から総合的に判断して、重症と判断される状態であること。
- 既存治療での効果不十分: 適切な強さのステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの外用療法、必要に応じてシクロスポリンなどの免疫抑制剤内服療法を一定期間(通常6ヶ月以上)行っても、症状が十分に改善しない、またはコントロールが難しい状態であること。
- 副作用などによる既存治療の継続困難: 既存の治療法で重篤な副作用が現れたり、患者さんの状況から継続が難しい場合も、生物学的製剤が検討されることがあります。
- 年齢: 使用できる生物学的製剤の種類によって、保険適用となる年齢が異なります。例えば、承認されている薬によっては、生後6ヶ月以上、2歳以上、6歳以上、13歳以上など、年齢制限が設けられています。
これらの基準は、各生物学的製剤の添付文書や診療ガイドラインに定められています。治療の開始にあたっては、医師がこれらの基準にお子さんの状態が合致するかどうかを慎重に判断します。
親御さんが医師に伝えるべき情報
お子さんの重症度評価や治療法の選択は、医師が専門的な知識と経験に基づいて行いますが、日頃お子さんと一緒に過ごしている親御さんからの情報は非常に重要です。
- 日々の症状: かゆみの程度、皮疹の広がりや見た目の変化、汁が出ているか、乾燥が強いかなど、具体的な状態を伝えるようにしましょう。可能であれば、写真を撮っておくと、より正確に伝えられます。
- かゆみや睡眠への影響: 夜眠れているか、かゆみで起きてしまうかなど、かゆみが生活にどれくらい影響しているかを具体的に伝えましょう。
- 日常生活への影響: 体育や水泳などの学校生活、習い事、遊びなど、アトピー性皮膚炎がお子さんの日常生活や気持ちにどのような影響を与えているかを伝えましょう。
- これまでの治療への反応: これまで使った薬の名前、どのくらいの期間使ったか、効果はどの程度あったか、副作用はなかったかなどを伝えましょう。お薬手帳があると便利です。
これらの情報は、医師がお子さんのアトピー性皮膚炎の状態を多角的に理解し、重症度を正しく評価し、最適な治療法(生物学的製剤を含む)を検討する上で大変役立ちます。
まとめ:医師との連携が重要です
アトピー性皮膚炎の重症度評価は、現在の状態を把握し、適切な治療法、特に生物学的製剤のような新しい選択肢を検討するための出発点となります。この評価は、医師が客観的な指標や問診を基に行います。
お子さんのアトピー性皮膚炎が重症と判断される場合や、これまでの治療で十分な効果が得られない場合には、生物学的製剤が治療の選択肢となる可能性があります。しかし、治療選択は重症度だけでなく、お子さんの年齢、全身の状態、合併症の有無、ご家族の意向など、様々な要素を考慮して行われます。
最も大切なことは、お子さんの状態について医師とよく話し合い、疑問や不安な点があれば遠慮なく質問することです。医師は、親御さんから得た情報と専門的な評価を組み合わせ、お子さんにとって最善の治療法を提案してくれるでしょう。