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お子さんのアトピー、生物学的製剤治療で皮膚の状態が良くなったら? 保湿とスキンケアの見直しポイント

Tags: アトピー性皮膚炎, 生物学的製剤, スキンケア, 保湿, 治療後, 子供, 維持療法

アトピー性皮膚炎のお子さんの治療に生物学的製剤が加わり、つらい症状が改善してきたというご家庭もいらっしゃるかと思います。皮膚の状態がきれいになり、かゆみが減って夜眠れるようになった、といった変化は、お子さんにとっても、そしてご家族にとっても大きな喜びであると存じます。

しかし、皮膚の状態が改善してくると、「もう以前のように一生懸命スキンケアをしなくても大丈夫なのでは?」「保湿剤を塗るのをやめてもいいのでは?」といった疑問が湧いてくるかもしれません。生物学的製剤治療によって炎症が抑えられた状態であっても、アトピー体質そのものが完全に消えるわけではありません。健康な皮膚の状態を維持するためには、治療開始前と同様に、あるいは状態に合わせて、スキンケアと保湿を継続することが非常に重要になります。

今回は、生物学的製剤治療でアトピー性皮膚炎の症状が改善してきたお子さんの、治療後のスキンケアと保湿の重要性、そして見直しのポイントについてお話しします。

生物学的製剤治療による皮膚の変化

生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症に関わる特定の物質(サイトカインなど)の働きを抑えることで効果を発揮します。これにより、皮膚の炎症が鎮まり、赤みやかゆみ、湿疹などの症状が改善します。炎症が治まることで、傷つき、乱れていた皮膚のバリア機能も回復に向かいます。健康な皮膚は外部からの刺激物質やアレルゲンの侵入を防ぎ、内部からの水分の蒸散を防ぐバリアとして働いています。生物学的製剤治療は、このバリア機能の回復を助ける側面もあるのです。

なぜ症状が改善しても保湿が必要なのでしょうか

皮膚のバリア機能が回復してきたとしても、アトピー性皮膚炎のお子さんは、生まれつき皮膚のバリア機能が弱い、あるいは乾燥しやすいといった体質を持っていることが少なくありません。この体質は、生物学的製剤治療を受けたからといって完全に変わるものではありません。

症状が改善して皮膚がきれいになった状態は、例えるなら「炎症が落ち着いている状態」です。この良い状態を維持するためには、皮膚のバリア機能をしっかりとサポートし続けることが大切です。保湿は、皮膚に水分を与え、うるおいを保つことで、皮膚のバリア機能を助ける基本的なケアです。保湿を怠ると、皮膚が乾燥しやすくなり、再び外部からの刺激に弱くなって炎症がぶり返してしまう可能性があります。

また、乾燥はかゆみを引き起こす一因でもあります。生物学的製剤で炎症によるかゆみが抑えられていても、乾燥によるかゆみが生じれば、再び掻きむしってしまうことにもつながりかねません。症状が安定している時期こそ、丁寧な保湿ケアによって、皮膚を良い状態に保ち、再燃を防ぐための土台作りを継続することが重要になります。

症状が改善してきたときのスキンケア見直しポイント

皮膚の状態が改善してきたら、これまでのスキンケア方法を少し見直す機会かもしれません。ただし、自己判断で大きく変更するのではなく、必ず主治医の先生と相談しながら進めてください。

  1. 保湿剤の種類や塗る量の調整 症状が重い時期には、しっかり保湿するために少しベタつきのある保湿剤を使用していたかもしれません。皮膚の状態が良くなり、乾燥も目立たなくなってきたら、もう少し軽い使用感の保湿剤に変更したり、塗る量を調整したりすることが可能です。ただし、保湿の回数や、皮膚全体にむらなく塗るという基本は変えずに、適切な量を塗布することが大切です。べたつきが気になる場合は、複数の保湿剤の中からお子さんに合うものを選ぶことも検討できます。

  2. 入浴・洗浄時の注意点の継続 皮膚の状態が良くなっても、熱すぎるお湯や、ナイロンタオル、ボディブラシなどを使った強い摩擦は、皮膚にダメージを与え、バリア機能を損なう可能性があります。ぬるめのお湯に短時間浸かり、石鹸はよく泡立てて、手で優しく洗う、といった基本的な洗浄時の注意点は継続してください。洗浄後も、タオルでゴシゴシ拭くのではなく、優しく押さえるように水分を拭き取ることが推奨されます。

  3. 外用薬(ステロイドなど)との使い分け 症状が改善すると、ステロイド外用薬の使用頻度や強さが減る、あるいは中止になる場合があります。医師から指示された外用薬の使用量は守り、外用薬を塗る部分と保湿剤を塗る部分を適切に使い分ける、あるいは塗布の順番を守るなど、医師の指示に基づいたケアを継続してください。多くの場合、まず炎症を抑える外用薬を塗り、少し時間を置いてから広範囲に保湿剤を塗るという流れになります。

  4. 季節や環境に応じたスキンケア アトピー性皮膚炎の皮膚は、季節や環境の変化の影響を受けやすいことがあります。空気が乾燥する冬場はもちろんのこと、夏場も汗や紫外線、エアコンによる乾燥などに注意が必要です。生物学的製剤治療で症状が安定していても、季節や環境に合わせた保湿ケアを行うことが、良い状態の維持につながります。

自己判断でのスキンケア変更は避けましょう

皮膚の状態が良い時期が続くと、「もう大丈夫」と思ってスキンケアや保湿を自己判断で中止したり、大幅に減らしたりしたくなるかもしれません。しかし、これは症状がぶり返してしまうリスクを高める行為です。皮膚の状態は日々変化する可能性があります。少しでも不安なことや、スキンケア方法を変更したいと考えた場合は、必ず主治医の先生に相談してください。先生は、お子さんの皮膚の状態を医学的な視点から評価し、最も適したスキンケアや治療方法についてアドバイスしてくださいます。

まとめ:継続的なケアが安定への鍵

生物学的製剤治療によってアトピー性皮膚炎の症状が改善することは、本当に素晴らしい変化です。この改善を長期的に維持し、お子さんが快適な毎日を送るためには、治療薬の効果に加えて、毎日の丁寧なスキンケア、特に保湿が非常に重要な役割を果たします。症状が落ち着いている時期こそ、将来のための皮膚の健康を守るための大切な期間と捉え、保湿を生活の一部として続けていくことが推奨されます。

スキンケアの方法や保湿剤の選択に迷った際には、遠慮なく医師や看護師、薬剤師にご相談ください。お子さんに合った方法で、継続的にスキンケアを行っていくことが、アトピー性皮膚炎との上手な付き合い方につながります。