お子さんの生物学的製剤治療、学校や周囲にどう伝えますか? 親御さんが知っておきたい説明のポイント
はじめに:治療を続ける上で大切な周囲の理解
お子さんのアトピー性皮膚炎の治療に生物学的製剤が導入され、皮膚の状態が少しずつ改善してきたとしても、日常生活の中で周囲の方に病気のことや治療について説明が必要になる場面があるかもしれません。特に、学校での生活や友人関係、習い事など、お子さんが多くの時間を過ごす場所では、先生やお友達、その保護者の方に理解していただくことが、お子さんが安心して過ごすために非常に大切です。
しかし、「どのように伝えたら良いのだろう」「どこまで話すべきか」と悩む親御さんもいらっしゃるかと思います。この治療法は比較的新しく、一般的にまだよく知られていないため、説明には少し工夫が必要かもしれません。
この記事では、お子さんの生物学的製剤治療について、学校や周囲の人にどのように伝えたらよいか、親御さんが知っておきたい説明のポイントを解説します。
なぜ学校や周囲に説明が必要なのでしょうか?
生物学的製剤による治療によって、お子さんの皮膚症状は大きく改善することが期待できます。見た目の変化に伴い、周囲の視線が気にならなくなるなど、お子さん自身の気持ちも前向きになることが多いでしょう。
一方で、治療を継続していく上で、以下のような理由から学校や周囲に説明が必要となることがあります。
- 誤解や偏見を防ぐため: アトピー性皮膚炎は見た目から誤解されやすい病気です。治療が進んで症状が軽快していても、病気そのものや治療法について正しく理解してもらうことで、不要な心配や偏見を防ぐことができます。
- 学校生活での配慮のため: 体を動かす授業、水泳、着替えの時間など、学校生活の様々な場面で、お子さんの体調や皮膚の状態に応じた配慮が必要となる場合があります。また、定期的な通院や、まれに起こりうる体調の変化について、学校側に理解してもらうことがスムーズな対応につながります。
- 緊急時の対応のため: 万が一、治療に関連して何らかの体調の変化があった場合に、学校側が病気や治療内容を把握していることで、連携がスムーズになり、適切な対応につながる可能性があります。
- お子さん自身の心の負担を減らすため: お子さん自身が病気や治療について周囲にどう思われるか不安を感じる場合があります。親が適切に情報を伝えることで、お子さんが安心して学校生活を送れるようになります。
学校の先生への説明:具体的なポイント
学校の先生は、お子さんが日中の多くの時間を過ごす上で、最も身近な存在です。担任の先生や保健室の先生には、特にしっかりと情報を伝えることが望ましいでしょう。
伝えるべき主な内容と、その際のポイントをご紹介します。
- 病気の現状について:
- お子さんがアトピー性皮膚炎であること、そして現在の症状がどの程度であるか(生物学的製剤によって改善傾向にあることなど)を伝えます。
- アトピー性皮膚炎が「うつる病気ではない」ということを、改めて明確に伝えておくと、先生や他の児童・保護者への不要な誤解を防ぐ助けになります。
- 生物学的製剤治療について:
- 現在、生物学的製剤という新しいお薬で治療していることを伝えます。
- 「アトピー性皮膚炎の原因となる体の内側の炎症を抑えるお薬で、注射で投与します」といった、作用や投与方法の簡単な説明を加えると理解しやすくなります。
- 治療によって期待できる効果(かゆみや湿疹の改善、QOLの向上など)を具体的に伝えます。
- 可能性のある副作用についても、医師から説明を受けた範囲で、もしもの場合に知っておいてほしいこと(例:注射部位の反応、体調の変化など)を伝えておくと安心です。ただし、必要以上に不安を煽るような伝え方は避けてください。
- 学校生活での配慮や注意点:
- お子さんが学校生活で困っていること、またはこれから困る可能性があることについて具体的に伝えます。
- 例えば、体育の授業での汗のケア、着替えの場所や時間の配慮、保湿剤の塗布時間、かゆみが増したときの対応など、具体的な状況を想定して伝えると、先生もイメージしやすくなります。
- 生物学的製剤の投与スケジュールについても共有しておくと、通院日の配慮などがスムーズになる場合があります。
- 緊急時の連絡体制:
- お子さんの体調に変化があった場合に、どのような兆候に注意すべきか、誰に、どのように連絡してほしいかを明確に伝えます。
- 緊急連絡先や、かかりつけの医療機関の情報などを共有しておきます。
- 医師との連携:
- 必要であれば、診断書や医師からの情報提供書などを学校に提出することを検討します。医師に相談し、学校への説明に役立つ資料を作成してもらうことも可能です。
- 医師に学校側から直接病状や治療について説明してもらう機会を設けることが可能か、相談してみるのも一つの方法です。
説明する際は、専門用語を避け、分かりやすい言葉で伝えることを心がけましょう。また、一方的に情報を伝えるのではなく、先生方が抱えている疑問や懸念点がないか、丁寧に耳を傾けることも大切です。お子さんの治療が学校生活に与える影響について、前向きに協力していきたいという姿勢を示すことで、より良い連携が築けるはずです。
友人や周囲の保護者への説明:どこまで伝える?
学校の先生とは異なり、友人や周囲の保護者の方には、どこまで詳しく説明するかは関係性やお子さんの年齢によって異なります。
- お子さんの友人:
- お子さんが病気や治療について友達に話したがらない場合や、まだ幼い場合は、無理に話す必要はありません。
- もしお子さんが話したいと思っている場合や、友達から質問があった場合には、「アトピーっていう皮膚の病気のお薬で、体の中を良くする注射なんだよ」「これのおかげで、前よりかゆくなくなったんだ」など、お子さんが理解しやすい簡単な言葉で伝えるサポートをしてあげましょう。
- 周囲の保護者:
- お子さんのアトピー性皮膚炎について、個人的に心配して声をかけてくださる方もいるかもしれません。
- その場合も、「新しい良いお薬で治療していて、だいぶ良くなってきました」「もう見た目ほど痒がらないんですよ」といった、現在の状況と治療による良い変化を中心に伝えるのが良いでしょう。
- もし、病気について誤解されているような発言があった場合には、「アトピー性皮膚炎はうつる病気ではないんです」といった基本的な情報だけを丁寧に訂正する形で伝えることも検討できます。
- 全ての保護者に積極的に説明する必要はありません。お子さんが安心して過ごせる範囲で、必要最低限の情報を共有するという考え方で良いでしょう。
説明する際の共通のポイント
- 情報を整理しておく: 説明する前に、伝えたいことを箇条書きにするなど、情報を整理しておくと落ち着いて話せます。
- ポジティブな変化も伝える: 治療による大変さだけでなく、「かゆみが減ってよく眠れるようになった」「肌がきれいになって自信が出てきた」といった、お子さんにとっての良い変化も伝えることで、周囲も治療の成果を理解しやすくなります。
- お子さんの気持ちを尊重する: お子さんが自分の病気や治療について、どれくらい周囲に知られたいか、話を聞いてあげてください。お子さんが話してほしくない内容を無理に話す必要はありません。お子さんのプライバシーや気持ちを尊重することが最も大切です。
- 無理のない範囲で: 全ての人に完璧に理解してもらうことは難しいかもしれません。無理のない範囲で、お子さんが関わる主要な人たちに、必要な情報だけを適切に伝えることを目指しましょう。
まとめ
お子さんが生物学的製剤治療を受けていること、そしてその効果によってお子さんの生活がより快適になっていることを、学校の先生をはじめとする周囲の方に適切に伝えることは、お子さんが安心して社会生活を送る上で大きな助けとなります。
伝え方には工夫が必要ですが、病気の現状、新しい治療の内容、期待できる良い変化、そして学校生活で必要な配慮などを、専門用語を使わずに分かりやすい言葉で丁寧に伝えることが大切です。医師とも相談しながら、学校への情報提供の方法についても検討してみてください。
周囲の理解とサポートは、お子さんだけでなく、親御さんの心の負担を軽減することにもつながります。この情報が、皆さんのコミュニケーションのヒントになれば幸いです。