子供のアトピー、生物学的製剤治療中に予防接種は受けられますか? 知っておきたい注意点
お子様が重症のアトピー性皮膚炎で、生物学的製剤による治療を検討されている、あるいはすでに治療を受けている親御さんの中には、予防接種について気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。他の病気からお子様を守るための予防接種は非常に大切ですが、免疫系に作用する生物学的製剤との関係について不安を感じるのも当然のことです。
この記事では、アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療中に予防接種を受ける際の考え方や注意点について、分かりやすくご説明します。
生物学的製剤は体の免疫にどう作用するのか
アトピー性皮膚炎は、免疫システムの過剰な反応によって皮膚に炎症が起こる病気です。生物学的製剤は、この過剰な免疫反応に関わる特定の物質(サイトカインなど)の働きを選択的に抑えることで、皮膚の炎症を鎮めるお薬です。
これまでの治療法であるステロイド外用薬や免疫抑制剤も免疫を抑える働きがありますが、生物学的製剤はよりピンポイントに特定の物質を狙うという点で違いがあります。この作用により、アトピー性皮膚炎の症状を大きく改善させることが期待できます。
しかし、免疫の働きを調整するという性質上、感染症に対する体の防御反応に影響を与える可能性もゼロではありません。そのため、予防接種についても慎重な検討が必要となる場合があります。
予防接種の種類と生物学的製剤治療中の考え方
予防接種には大きく分けて「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。生物学的製剤治療との関連で特に注意が必要となるのは、主に生ワクチンです。
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生ワクチン: 病原体(ウイルスや細菌)の病原性を弱めたものを体内に投与し、実際に近い形で免疫を獲得させるワクチンです。麻しん・風しん混合(MR)ワクチン、BCG、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンなどがこれにあたります。 生物学的製剤によって免疫機能が抑制されている状態では、弱毒化されているとはいえ病原体が増殖し、感染してしまうリスクが考えられます。そのため、多くの生物学的製剤治療中は、原則として生ワクチンの接種は避けるべきとされています。
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不活化ワクチン: 病原体を殺したり、毒性をなくしたりした成分の一部を体内に投与するワクチンです。インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、日本脳炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、DT(ジフテリア・破風)ワクチン、新型コロナウイルスワクチンなどがこれにあたります。 不活化ワクチンは病原体そのものが体内で増殖することはないため、生物学的製剤治療中でも比較的安全に接種できると考えられています。ただし、ワクチンの種類や患者さんの状態、使用している生物学的製剤によっては注意が必要な場合もあります。
治療開始前に予防接種を済ませておくことが望ましい場合も
もし、これから生物学的製剤による治療を開始することを検討しているのであれば、治療を開始する前に、定期の予防接種などが済んでいるか確認し、必要に応じて接種を完了させておくことが望ましい場合があります。特に生ワクチンについては、治療開始後に接種が難しくなる可能性があるため、主治医とよく相談し、接種のタイミングについて計画を立てることが大切です。
治療開始後に生ワクチンの接種が必要になった場合は、原則として一定期間生物学的製剤の投与を中止してから接種し、その後再び治療を再開するという方法が検討されます。しかし、治療を中断することでアトピー性皮膚炎の症状が悪化するリスクもありますので、この判断は必ず主治医が行います。
必ず主治医や専門医に相談してください
お子様の生物学的製剤治療中の予防接種については、上記のような一般的な考え方がありますが、お子様の病状、使用している生物学的製剤の種類、これまでの治療歴、そして接種したい予防接種の種類などによって、最適な対応は異なります。
最も重要なことは、必ずお子様の主治医(アトピー性皮膚炎を診てくれている医師)や、生物学的製剤治療に詳しい専門医に相談することです。予防接種を受けるかかりつけ医だけでなく、アトピー性皮膚炎の主治医に「この予防接種を受けたいのですが、生物学的製剤治療中に可能でしょうか?」と確認してください。
医師は、お子様の全身状態や免疫の状態を把握した上で、予防接種を受ける時期や種類について、適切なアドバイスをしてくれます。自己判断で予防接種を見送ったり、逆に医師に相談せずに接種したりすることは避けてください。
まとめ
アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療は、多くのお子様にとって症状を大きく改善させる可能性のある治療法です。同時に、他の病気から身を守るための予防接種も、お子様の健やかな成長にとって欠かせません。
生物学的製剤治療中に予防接種を受ける際には、生ワクチンと不活化ワクチンで注意点が異なります。特に生ワクチンについては、治療中の接種が推奨されないことが多いため、治療開始前に接種を済ませておくことなどが検討されます。
何よりも大切なのは、お子様の安全を最優先に考え、予防接種を受ける前に必ずアトピー性皮膚炎の主治医や専門医に相談し、指示を仰ぐことです。不安な点や疑問点は遠慮なく医師に尋ね、納得した上で予防接種の計画を進めてください。医師との密な連携が、治療と予防接種の両立を可能にする鍵となります。