子供のアトピー性皮膚炎に生物学的製剤はいつから？ 治療を始める前に知っておきたいこと
子供のアトピー性皮膚炎治療と新しい選択肢
お子様が重度のアトピー性皮膚炎で、これまでの治療で十分な効果が得られず、お悩みになっている親御さんもいらっしゃるかと思います。アトピー性皮膚炎の治療法は進歩しており、特に近年、生物学的製剤という新しいタイプのお薬が登場し、難治性の成人アトピー性皮膚炎に対して優れた効果が確認されています。
この生物学的製剤の一部は、現在、一定の年齢以上の子供のアトピー性皮膚炎に対しても使えるようになっています。しかし、「子供に新しい薬を使うのは大丈夫だろうか」「副作用はないのだろうか」「いつから、どのような場合に使えるのだろうか」といった多くの疑問や不安をお持ちかもしれません。
ここでは、子供のアトピー性皮膚炎における生物学的製剤について、どのような場合に検討されるのか、治療を始めるにあたってどのようなことを知っておくと良いのかを分かりやすくご説明します。
生物学的製剤とはどのようなお薬ですか？
生物学的製剤は、体の免疫システムに関わる特定の物質（サイトカインなど）の働きを選択的に抑えるように設計されたお薬です。アトピー性皮膚炎の発症には、IL-4やIL-13といった特定のサイトカインが深く関わっていることが分かっています。生物学的製剤は、これらのサイトカインの働きをピンポイントでブロックすることで、炎症やかゆみを抑える効果が期待できます。
これまでのアトピー性皮膚炎治療の中心であったステロイド外用薬や免疫抑制剤などが、炎症や免疫反応全般を抑える作用を持つことが多いのに対し、生物学的製剤はより標的を絞った治療法と言えます。
子供のアトピー性皮膚炎で生物学的製剤が検討されるのはどのような場合ですか？
子供のアトピー性皮膚炎に対して生物学的製剤が検討されるのは、主に以下のような状況です。
- 既存治療で十分な効果が見られない場合: 適切なスキンケアやステロイド外用薬、タクロリムス外用薬など、これまでの標準的な治療法を一定期間行っても、強い炎症やかゆみが続き、症状が十分にコントロールできていない場合です。
- 重症度が高い場合: アトピー性皮膚炎の病変が体の広い範囲に及んでいる、あるいは皮膚の厚みが増す苔癬化（たいせんか）が強い、睡眠を妨げるほどのかゆみが続いているなど、症状の程度が重いと判断される場合です。
- 特定の年齢以上であること: 生物学的製剤の種類によって、使えるようになる年齢が決まっています。例えば、アトピー性皮膚炎に用いられる代表的な生物学的製剤であるデュピクセント®は生後6ヶ月以上から使用可能です。（2024年5月現在。ただし、適用年齢は変更される可能性があります。）製剤ごとに適用年齢が異なりますので、必ず医師にご確認ください。
- その他の条件: 結核などの感染症にかかっていないか、特定の予防接種を受けているかなど、治療を安全に進めるための条件を満たす必要があります。
お子様に生物学的製剤の治療が適しているかどうかは、皮膚科専門医が湿疹の範囲や重症度、これまでの治療経過、年齢、全身の状態などを総合的に判断して決定します。
治療を始める前に知っておきたいこと
お子様のアトピー性皮膚炎治療として生物学的製剤を検討する際に、親御さんが知っておくと良い点をいくつかご紹介します。
1. 治療開始までの流れ
生物学的製剤による治療を開始する前には、いくつかのステップがあります。
- 医師との相談: まずは、お子様の症状やこれまでの治療について担当の医師と十分に話し合ってください。生物学的製剤が治療の選択肢として考えられるか、効果や副作用、治療期間などについて説明を受けます。
- 事前検査: 安全に治療を行うために、結核やB型・C型肝炎といった感染症にかかっていないかなどを調べるための血液検査や、必要に応じて胸部X線検査などが行われるのが一般的です。
- 適応の判断: これらの情報や検査結果をもとに、医師がお子様に生物学的製剤治療が適しているかを最終的に判断します。
- 初回投与と導入期: 治療が決定した場合、多くの場合、医療機関で医師や看護師の立ち会いのもと、初回投与が行われます。その後、数回の導入期を経て、症状が安定してくれば自宅での自己注射が検討される場合があります。
2. 投与方法
アトピー性皮膚炎に用いられる生物学的製剤は、ほとんどの場合、皮下注射によって投与されます。多くは2週間から4週間に一度の頻度で投与を行います。
医療機関によっては、親御さんが自宅で注射を行うための指導（自己注射指導）を受けることができます。看護師などが注射の方法を丁寧に教えてくれ、練習用のキットを使って手順を確認できます。最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れれば自宅で安全に投与できるようになります。
3. 効果と副作用
生物学的製剤は、適切に使用すれば、皮膚の炎症やかゆみを大幅に改善する効果が期待できます。多くの場合、投与開始から比較的早い時期に効果が現れ始めますが、個人差があります。
考えられる副作用としては、注射部位の反応（赤み、腫れ、痛みなど）、結膜炎や眼瞼炎（特にデュピクセント®の場合）、上気道炎、頭痛などがあります。重篤な副作用が起こる可能性は低いとされていますが、ゼロではありません。発熱や咳、全身のだるさなど、普段と違う症状が現れた場合は、すぐに医師に相談することが重要です。
副作用についても、治療開始前に医師から十分な説明を受けてください。
4. 治療費について
生物学的製剤による治療は、これまでの外用薬などと比較して高額になります。しかし、多くの場合は高額療養費制度や自治体による医療費助成制度の対象となります。これらの制度を利用することで、医療費の自己負担額には上限が設けられ、経済的な負担を軽減することができます。制度の詳細については、医療機関の相談窓口や、ご加入の健康保険組合、お住まいの自治体にご確認ください。
5. 他の治療法との関係
生物学的製剤による治療を開始した後も、保湿剤によるスキンケアや、症状に応じてステロイド外用薬などを併用することがあります。生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎治療における一つの「選択肢」であり、他の治療法をすべてやめるわけではありません。医師の指示に従い、適切な治療を続けることが大切です。
医師との相談が最も重要です
お子様のアトピー性皮膚炎に生物学的製剤が適しているかどうか、治療を始めるかどうかは、最終的に医師が総合的に判断することです。
生物学的製剤による治療は、お子様の症状を改善し、生活の質を高める有力な方法となり得ます。しかし、治療にはメリットだけでなく、考慮すべき点もあります。お子様にとって最適な治療法を選択するためにも、疑問や不安な点は遠慮せずに医師に伝え、十分に納得できるまで話し合うようにしてください。
新しい治療法について正確な情報を得て、医師と協力しながら治療を進めることが、お子様の健やかな毎日につながるものと考えています。