生物学的製剤治療中のアトピー性皮膚炎:診察で医師とどのように情報共有すればよいか? 経過観察のポイント
お子さんのアトピー性皮膚炎において、生物学的製剤による新しい治療が始まることは、ご家族にとって大きな希望であると同時に、今後の治療がどのように進んでいくのか、不安を感じることもあるかもしれません。生物学的製剤による治療は、開始して終わりではなく、定期的な診察を通じて効果や副作用を評価し、治療計画を調整しながら進めていくことが非常に重要です。
このページでは、生物学的製剤による治療が始まった後の診察で、医師とどのように情報共有を進めていけばよいか、親御さんが知っておきたい経過観察のポイントについて解説します。
なぜ経過観察と医師との情報共有が重要なのでしょうか?
生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の病態に関わる特定の物質の働きをピンポイントで抑える薬剤であり、多くのお子さんで高い効果が期待できます。しかし、その効果の現れ方や、稀に起こりうる副作用の種類や程度は、お子さん一人ひとりによって異なります。
定期的な診察で、医師が以下の点を確認し、親御さんから情報を得ることは、治療を安全かつ効果的に進めるために不可欠です。
- 治療効果の評価: 皮膚の状態やかゆみがどの程度改善しているかを確認し、治療が順調に進んでいるかを判断します。
- 副作用の早期発見と対応: 予期しない副作用がないかを確認し、もし発生した場合には早期に対処します。
- 治療計画の最適化: お子さんの状態に合わせて、生物学的製剤の投与量や投与間隔を調整したり、外用薬など他の治療法との組み合わせを検討したりします。
- ご家族の不安や疑問の解消: 治療に対する疑問や不安について医師と話し合い、安心して治療を続けられるようにします。
診察ではどのようなことが確認されるのでしょうか?
生物学的製剤治療中の定期診察では、主に以下のような点が確認されます。
- 皮膚の状態の評価: 医師が視診を行い、湿疹の範囲や程度、乾燥、かゆみの痕などを確認します。国際的な指標(例: EASIスコアなど)を用いて、客観的に皮膚の状態を評価することもあります。
- かゆみの状況: かゆみの強さ、特にかゆみが強い時間帯、かゆみが睡眠や日常生活に与える影響について確認します。
- 全身の状態: 発熱や倦怠感など、体調の変化がないかを確認します。
- 副作用の有無: 投与部位の反応(痛み、腫れ、赤みなど)や、その他の全身性の副作用(頭痛、上気道炎症状、眼の症状など)がないかを確認します。
- 血液検査など: 治療の種類によっては、治療開始前や治療中に定期的に血液検査などを行い、薬の影響がないか、特定の副作用の徴候がないかなどを確認することがあります。
これらの情報は、医師がお子さんの現在の状態を正確に把握し、今後の治療方針を検討するための重要な手がかりとなります。
親御さんが医師に伝えるべきこと、確認すべきこと
定期診察の時間は限られていることもありますが、お子さんの状態を一番よく理解しているのは親御さんです。診察時に以下の点を医師に具体的に伝えることで、より質の高い情報共有が可能となり、治療を円滑に進めることができます。
伝えるべきこと
- 自宅での皮膚の状態の変化:
- 湿疹が良くなっているのか、悪くなっているのか
- 特に気になる部位(顔、首、腕、脚など)
- 乾燥やジュクジュクしている部分など、湿疹の具体的な状態
- (可能であれば)状態が良い時の写真と悪い時の写真を持参する
- かゆみの状況:
- かゆみが強いのはどんな時か(夜間、寝起き、活動後など)
- どれくらいの頻度でかゆがっているか
- かゆみで眠れないことはあるか
- 掻き壊しの程度
- 体調や全身の状態:
- 発熱、咳、鼻水、喉の痛みなど、風邪のような症状がないか
- 下痢や腹痛などの消化器症状がないか
- いつもと違う様子(元気が無い、食欲がないなど)はないか
- 新しい症状(関節の痛み、頭痛、眼の症状など)がないか
- 日常生活の変化:
- 睡眠時間は確保できているか
- 学校や園での活動はどうか(体育、外遊びなど)
- 食事や運動など、何か新しく始めたことや変わったことはあるか
- 外用薬(ステロイド、保湿剤など)の使用状況(どれくらい使っているか、減らせたかなど)
- 生物学的製剤の投与状況:
- 決められた通りに投与できているか
- 投与部位に痛みや腫れ、赤みなどの異常がなかったか
- ご自宅での自己注射の場合、困っていることや不安な点はないか
確認すべきこと
- 現在の治療効果について医師の評価を聞く:
- 医師から見て、治療はどの程度うまくいっているか
- 目標とする状態に近づいているか
- 今後の治療計画について話し合う:
- 現在の薬剤で問題ないか、量の調整や変更の可能性はあるか
- 外用薬など、他の治療法との組み合わせに変更はあるか
- 次回の診察はいつ頃になりそうか
- 伝えたい症状や不安について質問する:
- 自宅で気になる症状について、それが薬剤の副作用である可能性や、どのように対処すればよいかを確認する
- 治療に対する疑問や、お子さんの将来に関する不安など、率直に相談する
自宅での記録のコツ
日々の変化は小さくても、後からまとめて医師に伝える際に役立ちます。全ての変化を記録する必要はありませんが、特に気になる点や、前回診察時からの変化を簡単にメモしておくと良いでしょう。
- 簡単なメモ: 皮膚の状態(〇月〇日、顔が赤くなった、夜かゆみが強かったなど)、体調の変化などを手帳やカレンダーに書き込む。
- 写真: 状態が良い時、悪い時の皮膚の写真を撮っておくと、視覚的に伝えやすくなります。(ただし、医療機関によっては写真の取り扱いにルールがある場合があるので、事前に確認しておくと安心です。)
- アプリの活用: アトピー性皮膚炎の症状記録に特化したスマートフォンアプリなどもあります。かゆみの強さや睡眠時間などを記録できるものもあり、医師との情報共有に役立つ場合があります。
医師との信頼関係を築くために
生物学的製剤による治療は、医師とご家族が連携して、お子さんの状態に合わせて進めていくチーム医療です。診察時に遠慮なく質問したり、自宅での様子を具体的に伝えたりすることで、医師はお子さんの状態をより深く理解することができます。治療に関する疑問や不安は抱え込まず、積極的に医師に相談してみてください。
まとめ
お子さんのアトピー性皮膚炎で生物学的製剤による治療を開始された後は、定期的な診察を通じた経過観察と、医師との密な情報共有が非常に重要です。親御さんが自宅での様子(皮膚の状態、かゆみ、体調、日常生活の変化など)を具体的に伝え、治療に関する疑問や不安を率直に相談することで、より安全で効果的な治療の継続につながります。
治療は必ず医師との話し合いのもとで進められます。日々の観察を通じてお子さんの状態を把握し、次回の診察で医師としっかりと情報共有を行い、お子さんにとって最善の治療を目指していきましょう。