生物学的製剤治療中のお子さんのアトピー性皮膚炎、もし症状が悪化したら?考えられる原因と対応
お子さんがアトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療を開始されて、皮膚の状態が安定してきた矢先に、また症状が悪化してしまうことがあるかもしれません。効果が出ていると思っていたのにどうしてだろう、とご不安になる方もいらっしゃるかと思います。
生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の炎症のメカニズムに特異的に作用し、高い効果が期待できる治療法です。しかし、生物学的製剤による治療中でも、様々な要因によって一時的に症状が悪化したり、治療効果が十分に得られなくなったりすることがあります。
ここでは、生物学的製剤治療中にアトピー性皮膚炎の症状が悪化した場合に考えられる原因と、親御さんがどのように対応し、医師とどのように連携していくかについて解説します。
生物学的製剤治療中に症状が悪化する原因として考えられること
生物学的製剤で治療していても、アトピー性皮膚炎の症状が悪化する背景には、いくつかの要因が考えられます。主なものをいくつかご紹介します。
- 外部からの刺激やアレルゲンの影響
- 汗、乾燥、衣類の摩擦、紫外線、化学物質などの外部刺激は、健康な肌でも負担になりますが、アトピー性皮膚炎の肌はバリア機能が低下しているため、影響を受けやすくなります。
- アレルゲン(ダニ、ほこり、花粉、特定の食物など)への接触や曝露が増えることで、アレルギー反応が強まり、症状が悪化することがあります。特に季節の変わり目などは注意が必要です。
- 感染症の合併
- アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低下しているため、細菌(黄色ブドウ球菌など)やウイルス(単純ヘルペスウイルスなど)に感染しやすくなっています。これらの感染が湿疹の悪化や新しい症状(とびひ、カポジ水痘様発疹症など)を引き起こすことがあります。
- 全身の感染症(風邪、インフルエンザなど)にかかった際に、体の免疫バランスが変化し、一時的に皮膚症状が悪化することもあります。
- スキンケアや外用薬の使用状況の変化
- 生物学的製剤の効果が出て症状が落ち着いてくると、スキンケア(保湿剤の塗布など)がおろそかになったり、医師から指示された外用薬(ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏など)の使用を自己判断で減らしたり中止したりしてしまうことがあります。適切なスキンケアや外用薬の併用は、生物学的製剤の効果を維持し、肌の状態を安定させるために非常に重要です。
- 生物学的製剤の効果の変動や不十分さ
- 個々のお子さんによって、生物学的製剤の効果の出方には違いがあります。治療開始直後は効果を感じていても、時間の経過とともに効果がやや弱まったり、症状の波によって一時的に悪化したりすることがあります。
- 生物学的製剤がターゲットとする特定の炎症経路以外の要因がアトピー性皮膚炎に関与している場合、その薬だけでは症状を完全に抑えきれないことがあります。
- ストレスや疲労
- 精神的なストレスや体の疲労は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因の一つと考えられています。お子さん自身の学校生活での悩みや、ご家族の状況など、様々な要因が考えられます。
症状悪化に気づいたら、親御さんができること、注意すること
お子さんのアトピー性皮膚炎の症状が悪化してきたと感じたら、まずは落ち着いて状況を観察することが大切です。
- 皮膚の状態をよく観察する
- 湿疹の広がり、赤み、かゆみの強さ、皮膚の厚さ、かき壊しの有無などを確認します。以前の悪化時と比較してどう違うか、新しい症状(水ぶくれ、かさぶた、熱感など)がないかなども確認しましょう。
- できれば、悪化している部分の写真を撮っておくと、受診時に医師に状況を伝えやすくなります。
- 最近の状況を振り返る
- 症状が悪化する前に、何かいつもと違うことはなかったか、思い返してみましょう。
- 新しい環境への変化(進級、引っ越しなど)
- 季節の変化や天候(乾燥、暑さ、花粉など)
- 食事内容の大きな変化
- 新しいスキンケア製品や洗剤などの使用
- 他の病気にかかったか、予防接種を受けたか
- 生活リズムの変化(睡眠不足など)
- 学校や家庭でのストレスの可能性
- 生物学的製剤の投与スケジュール通りに注射できていたか、自宅での保管状況に問題はなかったかなども確認しましょう。
- 医師から指示されているスキンケアや外用薬を、指示通りに使用できているか見直しましょう。
- 症状が悪化する前に、何かいつもと違うことはなかったか、思い返してみましょう。
- 自己判断で薬の量を増やしたり、むやみに新しい薬を試したりしない
- 症状が良くなった時に自己判断で生物学的製剤や外用薬を減らさないのと同じように、悪化した時も自己判断で薬の使い方を変えるのは避けましょう。特に感染が疑われる場合は、適切な診断と治療が必要です。
- 早めに医師に相談する
- お子さんの症状の変化に気づいたら、自己判断で様子を見すぎず、できるだけ早めに主治医にご相談ください。悪化の原因を特定し、適切な対応方針を立てるためには、医師の専門的な判断が不可欠です。
医師への相談:何を伝えるべきか?
受診の際には、悪化の状況を正確に伝えることが、適切な対応につながります。
- 症状の変化について: いつ頃から、どのように悪化してきたのかを具体的に伝えましょう。かゆみの強さや、睡眠への影響など、お子さんの様子も伝えられると良いでしょう。
- 悪化している部位: どの部分の症状が特にひどいのかを明確に伝えます。
- 考えられる原因: 上記で振り返った最近の状況(刺激、アレルゲンへの曝露、体調の変化、スキンケアや薬の使用状況など)で心当たりがあることを伝えましょう。
- 自宅での対応: 悪化に気づいてから、自宅でどのようなケア(保湿をいつも以上にしっかり行った、市販薬を塗ったなど)をしたか伝えましょう。
これらの情報を医師に伝えることで、医師は悪化の原因をより正確に判断し、生物学的製剤の投与スケジュールや他の治療法(外用薬の追加・変更、抗生物質の内服など)の調整、または追加の検査(細菌培養検査、アレルギー検査など)が必要かどうかを判断します。
症状悪化への対応と今後の見通し
医師は、悪化の原因に応じて、以下のような対応を検討します。
- 外用薬の調整: 炎症を抑えるために、一時的にステロイド外用薬などを集中的に使用するよう指示される場合があります。
- 感染症への対応: 細菌やウイルス感染が確認された場合は、抗菌薬や抗ウイルス薬が処方されます。
- スキンケアの見直し: 悪化しやすい状況に応じたスキンケアの方法について、改めて指導があるかもしれません。
- 生物学的製剤の評価: 悪化が繰り返されたり、症状が持続的に改善しない場合は、生物学的製剤の効果が不十分になってきている可能性も考慮し、投与間隔や量の調整(可能な場合)、あるいは他の生物学的製剤や別の作用機序を持つ薬剤への変更が検討されることもあります。
生物学的製剤による治療は、多くのお子さんのアトピー性皮膚炎の症状を大きく改善させ、QOLを向上させています。しかし、治療中にも症状の波があったり、予期せぬ悪化が起こる可能性はゼロではありません。
症状が悪化した時には、一人で悩まず、必ず主治医に相談してください。医師と密に連携を取りながら、悪化の原因を探り、適切な対応を行うことが、お子さんのアトピー性皮膚炎を良好な状態に保つために最も重要です。治療は継続であり、時には立ち止まって見直すことも必要です。お子さんの肌の状態を一緒に見守り、最適な治療法を共に探していくことが大切です。