アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療:ステロイドや保湿剤との賢い併用方法
アトピー性皮膚炎の新しい治療法として注目されている生物学的製剤は、多くの方にとって希望となる選択肢です。しかし、治療を開始するにあたり、「これまで使ってきたステロイド外用薬や保湿剤はどうすればいいのだろう?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
生物学的製剤による治療が始まった後も、これらの外用薬やスキンケアは非常に大切です。ここでは、生物学的製剤治療中の外用薬や保湿剤との併用について、その目的や考え方、効果的な使い方について詳しく解説します。
生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の炎症の元に作用します
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能異常と、免疫系の過剰な応答による皮膚の炎症が複雑に絡み合って起こる病気です。かゆみや湿疹といった症状は、この炎症が原因で引き起こされます。
生物学的製剤は、この免疫系の過剰な応答に関わる特定の物質(サイトカインなど)の働きをピンポイントで抑えることで、皮膚の炎症を強力に鎮静化させます。これにより、多くの場合、かゆみや湿疹といった症状が大幅に改善することが期待できます。従来の治療法では難しかった、重症・難治性のアトピー性皮膚炎に対する高い効果が報告されています。
生物学的製剤治療中も外用薬や保湿剤が必要な理由
生物学的製剤によって体の中から炎症の元を抑える治療を行うことで、皮膚の状態は大きく改善します。しかし、治療が始まったからといって、これまでの外用薬や保湿剤がすべて不要になるわけではありません。その理由はいくつかあります。
- 皮膚のバリア機能の回復に時間がかかることがある アトピー性皮膚炎では、生まれつき、あるいは炎症によって皮膚のバリア機能が低下しています。生物学的製剤で炎症が抑えられても、皮膚のバリア機能が完全に健康な状態に戻るまでには時間がかかる場合があります。乾燥しやすい状態が続けば、外部からの刺激に弱く、症状がぶり返す原因にもなりかねません。保湿剤は、皮膚のうるおいを保ち、バリア機能をサポートするために引き続き重要です。
- 部分的に炎症が残ったり、悪化することがある 生物学的製剤の効果には個人差があります。全身の症状が大幅に改善しても、特定の部位(肘の内側、膝の裏側、顔など)に炎症が残ったり、一時的に症状が悪化したりすることがあります。このような場合に、ステロイド外用薬などの抗炎症作用のある外用薬を部分的に使用することで、残った炎症を効果的に抑えることができます。
- より良い状態を維持するため 生物学的製剤によって皮膚の状態が安定しても、完全に無症状を保つためには、外用薬や保湿剤による日々のスキンケアが有効な場合があります。皮膚を良い状態に保つことで、症状の再燃を防ぎ、より安定した生活を送ることにつながります。
外用薬や保湿剤との具体的な併用方法
生物学的製剤治療中の外用薬や保湿剤の使用方法は、患者さんの症状や皮膚の状態によって異なります。必ず医師の指示に従って使用してください。一般的な考え方をいくつかご紹介します。
- 保湿剤は毎日、全身に継続して使用する 生物学的製剤治療中も、保湿剤は毎日のスキンケアとして継続することが基本です。入浴後など、肌が乾燥しやすいタイミングで、全身にムラなく塗布しましょう。皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を維持することは、アトピー性皮膚炎の管理において非常に重要です。
- ステロイド外用薬は必要な部位に必要な期間だけ使用する 症状が残っている部位や、一時的に悪化してしまった部位に対して、医師から処方された強さのステロイド外用薬を指示された通りに使用します。症状が改善したら、徐々に塗る回数を減らしたり、弱いランクのものに変更したり、中止したりします。生物学的製剤の効果で、ステロイド外用薬の使用量や塗る範囲を大幅に減らせる方が多くいらっしゃいますが、完全にゼロにできるかどうかは個人差があります。
- 他の外用薬(タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏など)との併用 ステロイド外用薬以外の免疫抑制作用を持つ外用薬についても、医師の判断で生物学的製剤と併用することがあります。これらの外用薬は、ステロイド外用薬を減らしたい場合や、特定の部位(顔など)に使用する場合に選択されることがあります。
- 内服薬(抗ヒスタミン薬など)との関係 かゆみが強い場合などに使用される抗ヒスタミン薬などの内服薬についても、生物学的製剤と併用されることがあります。生物学的製剤で炎症やかゆみが改善すれば、これらの内服薬が不要になる場合や、減量できる場合があります。
医師としっかり話し合うことが大切です
生物学的製剤治療は、アトピー性皮膚炎の治療において大きな進歩をもたらすものですが、これまでの治療薬が無意味になるわけではありません。外用薬や保湿剤、必要に応じて内服薬などを生物学的製剤と効果的に組み合わせることで、より良い皮膚の状態を目指すことができます。
治療の経過や皮膚の状態に合わせて、どの外用薬をどのくらいの量、どのくらいの頻度で使用するかは常に変化します。自己判断で使用量を変更したり、中止したりせず、必ず医師と密に連携を取りながら治療を進めていくことが重要です。
疑問や不安な点があれば、遠慮なく医師や薬剤師に質問し、納得した上で治療に取り組んでください。生物学的製剤と適切に外用薬などを併用することは、アトピー性皮膚炎の症状をより安定させ、日常生活の質の向上につながる大切なステップです。