知っておきたいアトピー新薬

アトピー性皮膚炎のお子さんが生物学的製剤治療を受ける際、特に注意したい感染症について

Tags: アトピー性皮膚炎, 生物学的製剤, 子供, 感染症, 安全性

アトピー性皮膚炎の治療において、従来の治療法で十分な効果が得られない場合や、より高い治療目標を目指す場合に、生物学的製剤が選択肢の一つとして加わってきています。生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症反応に関わる特定の物質の働きをピンポイントで抑えることで、かゆみや湿疹などの症状を改善させるお薬です。

お子さんのアトピー性皮膚炎の治療に生物学的製剤を検討されている、あるいはすでに治療を始められている親御さんの中には、その効果に期待される一方で、安全性、特に感染症のリスクについて不安を感じていらっしゃる方もおられるかと思います。

生物学的製剤は免疫の働きを調整するお薬であるため、一部の感染症にかかりやすくなる可能性が指摘されています。しかし、そのリスクを正しく理解し、適切な予防と対策を行うことで、多くの場合、安全に治療を続けることが可能です。

この記事では、アトピー性皮膚炎のお子さんが生物学的製剤治療を受ける際に、特に注意していただきたい感染症について、その理由や具体的な感染症の種類、予防策、そしてもしもの場合の対処法についてご説明します。

なぜ生物学的製剤治療中に感染症に注意が必要なのでしょうか?

アトピー性皮膚炎のお子さんは、もともと皮膚のバリア機能が低下しているため、健康な皮膚のお子さんと比べて細菌やウイルスの侵入を許しやすく、感染症にかかりやすい傾向があります。

生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の原因となるサイトカイン(免疫細胞から放出される情報伝達物質)の働きを抑えることで炎症を鎮めます。これにより、つらいかゆみや湿疹を改善させ、皮膚のバリア機能を回復させる効果が期待できます。

しかし、これらのサイトカインは、体の免疫システムが細菌やウイルスといった病原体と戦うためにも重要な役割を担っています。そのため、生物学的製剤によって特定のサイトカインの働きを抑えることで、病原体に対する体の防御反応が少し弱まり、一部の感染症にかかりやすくなったり、症状が重くなりやすくなったりする可能性があると考えられています。

特に注意したい感染症について

生物学的製剤の種類によって注意すべき感染症の種類やリスクの程度は異なりますが、一般的に注意が必要とされるものとして、以下のような感染症が挙げられます。

ヘルペスウイルス感染症

ヘルペスウイルスにはいくつかの種類があり、単純ヘルペスウイルスによる口唇ヘルペスや性器ヘルペス、水痘・帯状疱疹ウイルスによる水ぼうそうや帯状疱疹などがあります。

アトピー性皮膚炎のお子さんは、もともと皮膚のバリア機能が低下しているため、ヘルペスウイルスに感染しやすいことが知られています。特に注意が必要なのが、湿疹のある部位に単純ヘルペスウイルスが感染し、急速に悪化する「カポジ水痘様発疹症」です。これは発熱とともに、皮膚に水ぶくれやただれが広がる重い状態です。

生物学的製剤治療を受けている場合、免疫機能が調整されていることで、このようなヘルペスウイルス感染症が起こりやすくなったり、重症化したりする可能性が指摘されています。

水ぼうそうの原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスもヘルペスウイルスの仲間です。過去に水ぼうそうにかかったことがある、あるいは水ぼうそうの予防接種を受けたお子さんの体の中には、ウイルスが潜んでいます。免疫機能が低下すると、この潜んでいたウイルスが再び活動して帯状疱疹として発症することがあります。

その他の感染症

ヘルペスウイルス感染症以外にも、まれに注意が必要な感染症として、真菌感染症(カビによる感染症)や、結核などの注意喚起がなされている薬剤もあります。結核は、過去に感染したことがあっても症状が出ないまま体内に潜んでいる場合があり、免疫機能が低下した際に発症する可能性があります。そのため、生物学的製剤による治療を開始する前に、結核の検査を行うことが一般的です。

感染症予防のために親御さんができること

感染症のリスクを軽減するために、日頃からできることがいくつかあります。

もし感染症を疑ったらどうすればよいでしょうか?

発熱、だるさ、食欲不振など、普段と違うお子さんの様子に気づいたら、注意が必要です。特に皮膚に普段見られない水ぶくれ、ただれ、痛みを伴う発疹などが現れた場合は、ヘルペスウイルス感染症の可能性も考えられます。

このような症状に気づいたら、自己判断せず、速やかに主治医にご連絡ください。早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、重症化を防ぐために非常に重要です。受診する際は、生物学的製剤で治療中であることを必ず医療機関に伝えてください。

医師とのコミュニケーションの重要性

生物学的製剤治療中の感染症リスクについて不安を感じる場合は、遠慮なく主治医に相談してください。主治医は、お子さんの状態や使用している薬剤の種類、予想されるリスクについて詳しく説明してくれます。

また、日頃からお子さんの体調の変化や、気になる症状があれば、定期的な診察の際に主治医に伝えるようにしましょう。親御さんからの情報は、お子さんの健康状態を把握し、必要な対応を行う上で大変役立ちます。

まとめ

アトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤治療は、これまで症状に悩まされてきたお子さんにとって、症状の改善やQOLの向上につながる希望となる治療法です。治療中に注意が必要な感染症もありますが、これらのリスクを正しく理解し、日頃からの予防策を講じ、体調の変化に注意して早期に医療機関に相談することで、多くの場合は安全に治療を継続することが可能です。

お子さんの治療について不安なこと、疑問なことがあれば、いつでも主治医や医療スタッフにご相談ください。一緒に、お子さんにとって最善の治療を進めていきましょう。