お子さんのアトピー性皮膚炎、生物学的製剤の注射の痛みを和らげるには? 親御さんができる工夫
はじめに
お子さんのアトピー性皮膚炎の治療において、生物学的製剤が選択肢となる場合があります。これらの薬剤の一部は、ご自宅で定期的に皮下注射によって投与されることが一般的です。治療効果を実感されている一方で、親御さんの中には、お子さんが注射を嫌がったり、痛がったりすることに心を痛めている方もいらっしゃるかもしれません。
この度、生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎治療中の注射時の痛みに焦点を当て、痛みを和らげるために親御さんができる具体的な工夫についてご紹介いたします。お子さんが安心して治療を続けられるよう、少しでもお役に立てれば幸いです。
なぜ注射は痛みを感じるのでしょうか
注射によって痛みが引き起こされる原因はいくつか考えられます。主なものとしては、以下の点が挙げられます。
- 針が皮膚を通過する刺激: 針が皮膚の表面や内部にある神経に触れることで痛みを感じます。
- 薬液の注入: 薬液が皮下組織に注入される際に、組織が広がる感覚や、薬液自体の刺激によって痛みや不快感が生じることがあります。薬液の種類や量によって感じ方が異なる場合もあります。
- 筋肉の緊張: 注射時に体がこわばったり、筋肉が緊張したりすると、痛みが増すことがあります。
- 心理的な不安や恐怖: 特に注射が苦手なお子さんの場合、「痛いのではないか」という不安や恐怖心が痛みを強く感じさせてしまうことがあります。
これらの要因に対して、どのようにアプローチできるかを考えてみましょう。
痛みを和らげるための具体的な工夫:投与前
注射を行う前に準備をすることで、痛みを軽減できる可能性があります。
- 薬液の温度管理: 冷蔵庫から出してすぐの冷たい薬液を注入すると、刺激となり痛みを強く感じやすいことがあります。医師や薬剤師から特別な指示がない限り、投与の30分から1時間ほど前に冷蔵庫から取り出し、室温に戻してから使用することが推奨されます。ただし、薬剤によって適切な温度管理の方法は異なりますので、必ず説明書を確認するか、医療従事者に確認してください。
- 注射部位の選定: 注射部位として推奨されている箇所(お腹、太ももなど)の中で、お子さんが比較的リラックスでき、筋肉が緊張しにくい場所を選びましょう。毎回同じ場所ではなく、推奨される範囲で少しずつずらして投与することも、同じ部位への負担を減らし、痛みを分散させる上で有効です。
- 注射部位の清潔: 注射部位をアルコール綿などで消毒する際は、完全に乾いてから注射するようにします。アルコールが乾ききらないうちに針を刺すと、刺激となることがあります。
- お子さんの心の準備: 注射の直前に「今から注射するよ」と突然行うのではなく、事前に「そろそろ注射の時間だよ」「終わったら〇〇しようね」などと声をかけ、心の準備をさせてあげましょう。お子さんの年齢に合わせて、注射の必要性や手順を優しく説明することも安心につながります。リラックスできる姿勢をとらせたり、好きなぬいぐるみやブランケットを近くに置いたりするのも良いでしょう。
痛みを和らげるための具体的な工夫:投与時
実際に注射を行う際のポイントです。
- 迅速かつ正確な操作: 医療機関で指導された通り、注射器の操作は迅速かつ正確に行うことが大切です。迷ったり、時間をかけすぎたりすると、お子さんの緊張が高まりやすくなります。
- 皮膚の準備: 注射部位の皮膚を軽く引っ張る、あるいは押さえるように指示される場合があります。これにより、針がスムーズに入りやすくなり、痛みが軽減されることがあります。薬剤やデバイスによって推奨される方法が異なりますので、指導内容に従ってください。
- お子さんの気をそらす: 注射している最中に、お子さんの意識を痛みからそらす工夫をします。好きな歌を歌ったり、動画を見せたり、絵本を読んだり、しりとりをしたりするなど、お子さんが楽しいと感じることに集中できるように促してみましょう。
痛みを和らげるための具体的な工夫:投与後
注射が終わった後も、お子さんへのケアは続きます。
- 注射部位のケア: 注射後の部位は、指示があれば軽く押さえる程度にし、強く揉まないようにします。絆創膏が必要な場合は貼ってあげましょう。
- お子さんへの声かけ・労い: 注射が終わったら、「よく頑張ったね」「痛かったのにえらかったね」など、しっかりと褒めて労ってあげましょう。頑張りを認められることで、お子さんの達成感や安心感につながり、次回の注射への抵抗感を減らすことにもつながります。
痛みが強い場合の対応
様々な工夫をしても、お子さんが毎回ひどく痛がったり、注射に対して強い恐怖心を持ってしまったりする場合もあるかもしれません。そのような場合は、一人で抱え込まず、必ず医師や看護師に相談してください。
注射の方法や部位について再度アドバイスをもらったり、お子さんの状況に応じたより専門的な対応について話し合ったりすることができます。場合によっては、注射の痛みを和らげるための表面麻酔薬の使用を検討できるかなど、医療的な選択肢についても相談してみることも大切です。ただし、これらは必ず医師の診断と指示のもとで行う必要があります。
大切なこと:お子さんと一緒に向き合う姿勢
生物学的製剤による自宅注射は、お子さんのアトピー性皮膚炎を良い状態に保つための大切なステップです。痛みを伴う可能性はありますが、お子さんと一緒にこの治療に向き合い、痛みを和らげるための工夫を重ねていくことが重要です。
親御さん自身も、注射をすることへのプレッシャーや、お子さんが痛がる姿を見るつらさを感じることがあるかもしれません。そのような感情も無理に抑え込まず、医療従事者や身近な人に話を聞いてもらうことも大切です。
まとめ
生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎の治療における自宅注射は、お子さんと親御さんにとって乗り越えるべき課題の一つかもしれません。注射時の痛みを完全にゼロにすることは難しい場合もありますが、薬液の準備、注射部位の選定、お子さんの心のケア、投与時の工夫など、様々なアプローチで痛みを軽減し、負担を和らげることが可能です。
この記事でご紹介した内容を参考に、お子さんに合った方法を見つけてみてください。そして、もしお悩みや不安があれば、いつでも医療機関にご相談ください。お子さんが少しでも快適に、そして安心して治療を続けられるよう、一緒に歩んでいきましょう。