生物学的製剤治療中のアトピー性皮膚炎:季節や環境に応じたスキンケアと日常生活の工夫
アトピー性皮膚炎の治療法は近年大きく進歩しており、生物学的製剤のような新しい選択肢が登場しています。これらの治療薬は、これまで難治性とされていた重症のアトピー性皮膚炎の症状を劇的に改善させる可能性を持っています。
しかしながら、生物学的製剤による治療を開始した後も、アトピー性皮膚炎の症状は季節や周囲の環境によって影響を受けることがあります。治療効果を維持し、より快適な日常生活を送るためには、薬による治療に加えて、日々のスキンケアや生活習慣の工夫も引き続き非常に重要です。
この項目では、生物学的製剤治療を受けているお子さんのアトピー性皮膚炎について、季節や環境の変化に合わせたスキンケアや日常生活で気をつけるべき点について詳しく解説します。
生物学的製剤治療とスキンケア、生活習慣の関係
生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす特定の物質(サイトカインなど)の働きをピンポイントで抑えることで、皮膚の炎症やかゆみを強力に抑制します。これにより、皮膚の状態は大きく改善し、保湿剤やステロイド外用薬の使用量を減らせる場合もあります。
しかし、生物学的製剤はアトピー性皮膚炎の「体質そのもの」を変えるわけではありません。皮膚のバリア機能が完全に正常に戻るわけではなく、外部からの刺激(乾燥、汗、花粉、ほこりなど)や内部要因(ストレス、疲労)によって症状が悪化する可能性はゼロではありません。
そのため、生物学的製剤治療中であっても、基本的なスキンケア(保湿、清潔の保持)や、アトピー性皮膚炎を悪化させる可能性のある要因への対策は継続して行うことが推奨されます。これは、薬の効果を最大限に引き出し、再燃を防ぎ、良い状態を長く保つために不可欠です。
季節ごとのスキンケアと日常生活の注意点
季節によって皮膚を取り巻く環境は大きく変化します。それぞれの季節に合わせたケアが必要です。
春(花粉、寒暖差、新しい環境)
- スキンケア:
- 花粉が付着しやすい季節です。外出から帰ったら、服を払い、顔や露出部分を優しく洗って花粉を洗い流しましょう。
- 空気の乾燥は和らぎますが、引き続き保湿は重要です。
- 日常生活:
- 花粉の飛散が多い日は、外出を控えめにしたり、洗濯物を室内に干すなどの対策が有効です。
- 新しい学年や環境への変化はストレスになることがあります。お子さんの様子をよく観察し、休息をしっかり取るように促しましょう。
- 急な寒暖差も皮膚に負担をかけることがあります。体温調節しやすい服装を心がけてください。
夏(汗、紫外線、虫刺され、冷房)
- スキンケア:
- 汗はアトピー性皮膚炎のかゆみを悪化させる大きな原因の一つです。汗をかいたら、こまめにシャワーを浴びるか、濡らしたタオルで優しく拭き取るようにしましょう。石鹸を使う場合は、刺激の少ないものをよく泡立てて使い、よく洗い流してください。
- 紫外線も皮膚に負担をかけます。日焼け止めを使用する場合は、敏感肌用や子供用を選び、事前にパッチテストを行うとより安心です。長時間強い日差しを浴びるのは避けましょう。
- 虫刺されもかゆみや炎症の原因となります。虫よけ対策(肌に直接つけない、衣服やベビーカーに貼るタイプなど)を適切に行いましょう。
- 日常生活:
- 冷房による空気の乾燥に注意が必要です。室内の湿度を適切に保つ(50~60%程度)よう心がけましょう。
- 水遊びは気分転換になりますが、プールの塩素や海水が刺激になることもあります。遊んだ後は必ずシャワーで洗い流し、しっかりと保湿を行ってください。
秋(乾燥の始まり、衣替え、アレルギー)
- スキンケア:
- 夏が終わり、空気が乾燥し始めます。保湿剤を夏場よりもしっかり塗布する時期です。必要に応じて、より保湿力の高いタイプに切り替えることも検討しましょう。
- 日常生活:
- 衣替えの季節ですが、長期間保管していた衣類にはダニやカビが付着している可能性があります。着用前に洗濯することをおすすめします。
- ダニやカビのアレルギーが悪化しやすい季節です。こまめな掃除機がけや換気、寝具の手入れなどが重要になります。
冬(乾燥、寒さ、厚着、感染症)
- スキンケア:
- 一年で最も空気が乾燥する季節です。保湿はこれまで以上に念入りに行いましょう。入浴時も、熱すぎるお湯や長湯、体をゴシゴシ洗いすぎることなどは避け、肌への負担を減らしてください。
- 日常生活:
- 厚着や暖房による汗や蒸れも、かゆみを誘発することがあります。重ね着で温度調節をしたり、暖房の設定温度を適切にする(高すぎない)などの工夫をしましょう。
- インフルエンザなどの感染症が流行しやすい時期です。生物学的製剤の種類によっては免疫機能に影響を与えるものもありますので、感染予防(手洗い、うがい、人混みを避けるなど)に普段以上に気を配ることが大切です。生物学的製剤治療中の予防接種については、必ず事前に主治医にご相談ください。
共通して気をつけたいこと
季節に関わらず、以下の点も日々のケアで重要です。
- 保湿: 生物学的製剤で炎症が抑えられても、皮膚のバリア機能は完全ではないことが多いです。保湿剤を毎日、全身に丁寧に塗布することで、皮膚の乾燥を防ぎ、外部刺激から守ることができます。
- 衣類: 肌触りの良い、刺激の少ない素材(綿など)を選びましょう。ウールなどのチクチクする素材は避けるのが無難です。
- 入浴: ぬるめのお湯に短時間入るのが理想的です。石鹸は刺激の少ないものを使い、泡で優しく洗い、十分にすすいでください。入浴後は速やかに保湿を行いましょう。
- 住環境: 部屋をこまめに掃除し、ほこりやダニを減らすことが大切です。適切な湿度(50~60%)を保つように心がけましょう。
- 食事・睡眠: バランスの取れた食事と十分な睡眠は、体の調子を整え、皮膚の状態にも良い影響を与えます。
- ストレス: ストレスはアトピー性皮膚炎を悪化させる要因の一つと考えられています。お子さんがリラックスできる時間を作り、ストレスを溜め込まないようにサポートしましょう。
医師との相談
季節ごとのスキンケアや生活習慣の工夫を行っても、症状が悪化する場合や、どのようなケアをすれば良いか迷う場合は、遠慮なく主治医や看護師、薬剤師に相談してください。現在の皮膚の状態や、使用している生物学的製剤の種類、併用している外用薬などを考慮して、適切なアドバイスが得られます。
まとめ
アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療は、これまでの治療で十分な効果が得られなかったお子さんにとって、大きな希望となる治療法です。この治療によって皮膚の状態は大きく改善することが期待できますが、治療効果を維持し、再燃を防ぐためには、日々のスキンケアや生活習慣の工夫も引き続き重要です。
季節や環境の変化に合わせた適切なケアを継続することで、より安定した皮膚の状態を保ち、お子さんとご家族の生活の質(QOL)の向上につなげることができるでしょう。治療は医師との協力のもとで行われるものです。何か不安なことや疑問点があれば、必ず専門家にご相談ください。