知っておきたい:アトピー性皮膚炎のお子さん、生物学的製剤治療と食物アレルギーの関係
アトピー性皮膚炎のお子さんを持つ親御さんの中には、食物アレルギーについても心配されている方が多くいらっしゃるかと思います。アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、どちらもアレルギー疾患であり、お子さんによっては両方を合併していることも少なくありません。
「新しいアトピーの治療法である生物学的製剤は、アトピーだけでなく、食物アレルギーにも何か良い影響があるのだろうか?」と疑問に思われることもあるかもしれません。
ここでは、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係性や、生物学的製剤がこれらの疾患にどのように作用するのかについて、現在の医学的な知見に基づいてご説明します。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係性
アトピー性皮膚炎のお子さんが食物アレルギーを合併しやすいことはよく知られています。これは、「アレルギーマーチ」と呼ばれる現象の一部と考えられています。アレルギーマーチとは、乳幼児期にアトピー性皮膚炎を発症し、その後に食物アレルギー、ぜんそく、アレルギー性鼻炎といった他のアレルギー疾患を次々と発症していく様子を指します。
なぜアトピー性皮膚炎があると食物アレルギーになりやすいのでしょうか。その理由の一つとして、傷んだ皮膚バリアから食物アレルゲンが侵入し、体の中でアレルギー反応を起こす「経皮感作」という経路が重要視されています。健康な皮膚であればアレルゲンが侵入しにくいのですが、アトピー性皮膚炎で皮膚のバリア機能が低下していると、アレルゲンが容易に侵入し、アレルギーが成立しやすくなると考えられています。
生物学的製剤はアトピー性皮膚炎にどう働くか
生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の炎症を引き起こす特定のサイトカイン(細胞から放出されるタンパク質で、細胞間の情報伝達に関わる物質)の働きをピンポイントで抑えるように設計されたお薬です。これにより、アトピー性皮膚炎の根本的な炎症反応を抑え、皮膚の症状(かゆみ、湿疹、乾燥など)を改善に導きます。
アトピー性皮膚炎の治療によって皮膚の状態が改善し、バリア機能が回復することは、先述の経皮感作のリスクを減らすことにつながる可能性があります。つまり、生物学的製剤でアトピー性皮膚炎をしっかりとコントロールすることは、間接的に、食物アレルゲンが皮膚から侵入して感作される可能性を低くする効果が期待できるかもしれません。
生物学的製剤が食物アレルギーそのものに与える影響は?
生物学的製剤は、現時点ではアトピー性皮膚炎を主な適応症とする治療薬として開発・承認されています。食物アレルギーそのものに対する治療薬として、生物学的製剤が直接的に有効であるという確立されたエビデンス(科学的根拠)は、アトピー性皮膚炎に対するものほど多くはありません。
しかし、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーには共通する炎症メカニズムの一部があるため、アトピー性皮膚炎治療で用いられる生物学的製剤が、食物アレルギーの病態に関わるサイトカインの一部にも作用し、間接的に影響を与える可能性は理論的に考えられます。実際に、一部の臨床試験や観察研究では、アトピー性皮膚炎の改善に伴い、食物アレルギーの症状や、アレルゲンに対する反応性にある程度変化が見られたという報告も散見されます。
ただし、これはアトピー性皮膚炎が良くなったことによる二次的な効果である可能性も高く、生物学的製剤が食物アレルギーそのものを治癒させたり、経口免疫療法のような食物アレルギーに対する直接的な治療効果を持つと断定することは、現時点では難しい状況です。
重要なのは、生物学的製剤はあくまでアトピー性皮膚炎の治療薬であり、食物アレルギーの治療は別途行う必要があるということです。
食物アレルギーへの対応で注意すべきこと
アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療を開始されたとしても、食物アレルギーをお持ちのお子さんの場合は、これまで通り、主治医やアレルギー専門医の指導の下で適切な食物アレルギーの管理(原因食物の除去、緊急時の対応準備など)を継続することが非常に重要です。
生物学的製剤の効果によってアトピー性皮膚炎が改善したからといって、自己判断で食物アレルギーの原因食物を試したり、これまでの管理方法を変更したりすることは、重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を引き起こす危険性があります。
もし、生物学的製剤治療中に食物アレルギーの症状に変化を感じたり、食物アレルギーの管理について疑問や不安があったりする場合は、必ず担当の医師にご相談ください。医師は、お子さんのアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの両方の状態を総合的に判断し、最適な治療・管理方法についてアドバイスしてくださいます。
まとめ
アトピー性皮膚炎の生物学的製剤治療は、皮膚の炎症を抑え、バリア機能を改善することで、食物アレルギーの経皮感作リスクを間接的に減らす可能性が期待できます。また、アトピー性皮膚炎の改善に伴い、他のアレルギー症状にも良い影響が見られるケースがあるかもしれません。
しかし、生物学的製剤は主にアトピー性皮膚炎の治療薬であり、現時点では食物アレルギーそのものに対する直接的な治療薬として確立されているわけではありません。食物アレルギーの適切な管理は引き続き重要であり、治療方針の変更などは必ず医師と相談の上で行う必要があります。
アトピー性皮膚炎も食物アレルギーも、お子さんの健康と日常生活に大きく関わる病気です。これらの治療や管理について不安な点があれば、いつでも主治医に相談し、正確な情報を得るようにしてください。