アトピー性皮膚炎のお子さん、ぜんそくや鼻炎も? 生物学的製剤と合併症について
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下と、アレルギーを引き起こす体質の組み合わせによって起こる慢性の炎症性疾患です。アトピー性皮膚炎のお子さんの中には、ぜんそくやアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどを合併しやすい傾向があることが知られています。これは「アレルギーマーチ」とも呼ばれ、乳児期のアトピー性皮膚炎から始まり、成長とともに他のアレルギー疾患を発症していく経過を指すことがあります。
特にお子さんの場合、アトピー性皮膚炎だけでなく、ぜんそくによる咳や息苦しさ、アレルギー性鼻炎によるくしゃみや鼻づまりといった症状にも悩まされているケースは少なくありません。これらの合併症があると、アトピー性皮膚炎の治療だけでなく、全体的なアレルギー管理がより複雑になる場合があります。
アトピー性皮膚炎と他のアレルギー疾患に共通するメカニズム
アトピー性皮膚炎、ぜんそく、アレルギー性鼻炎といったアレルギー疾患は、それぞれ異なる臓器に症状が現れますが、その発症には共通する免疫の仕組みが深く関わっています。特に、IL-4やIL-13といったサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質で、免疫の働きを調整する物質)が、アレルギー性の炎症を引き起こす中心的な役割を果たしていることが分かっています。
これらのサイトカインが過剰に働くことで、皮膚の炎症が悪化したり、気道が過敏になってぜんそくの症状が出たり、鼻の粘膜に炎症が起きて鼻炎症状が現れたりします。
生物学的製剤が合併症に与える影響
アトピー性皮膚炎の治療に使われる生物学的製剤の一部は、このIL-4やIL-13といったサイトカインの働きをピンポイントで抑えるように設計されています。例えば、アトピー性皮膚炎治療薬として広く使われているデュピルマブ(商品名デュピクセント)は、IL-4とIL-13の共通受容体をブロックすることで、これらのサイトカインが引き起こす炎症反応を抑制します。
この作用メカニズムから、デュピルマブはアトピー性皮膚炎の皮膚症状を改善させるだけでなく、IL-4やIL-13が関わる他のアレルギー疾患、特にぜんそくやアレルギー性鼻炎に対しても効果を示すことが期待されています。実際に、デュピルマブはアトピー性皮膚炎に加え、特定のタイプのぜんそくや、既存治療で効果不十分なアレルギー性鼻炎に対しても適応が認められています(アトピー性皮膚炎への適応年齢と、ぜんそくや鼻炎への適応年齢や条件は異なる場合があります)。
生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎治療を行うことで、皮膚の炎症が改善されるだけでなく、合併しているぜんそくの発作が減ったり、アレルギー性鼻炎の症状が和らいだりといった効果が見られる場合があります。これは、共通の炎症経路をブロックすることで、全身のアレルギー体質に良い影響が及ぶためと考えられます。
他のアレルギー治療との併用について
生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎治療を開始した後も、合併しているぜんそくやアレルギー性鼻炎に対して、これまでの治療(吸入ステロイド薬、抗ヒスタミン薬など)が必要な場合があります。自己判断でこれらの治療薬を中止したり、量を減らしたりすることは避け、必ず担当の医師の指示に従うようにしてください。
生物学的製剤は、あくまで特定のサイトカインの働きを抑える治療法であり、既存の対症療法薬とは作用機序が異なります。それぞれの治療薬には役割があり、適切に併用することで、より良い症状のコントロールが可能になる場合が多くあります。
医師との相談が重要です
お子さんがアトピー性皮膚炎に加えて、ぜんそくやアレルギー性鼻炎などの合併症をお持ちの場合、生物学的製剤治療を検討する際は、アトピー性皮膚炎だけでなく、合併症の状況も含めて総合的に判断することが非常に重要です。
担当の皮膚科医に、ぜんそくや鼻炎の症状についても詳しく伝え、これらの合併症が生物学的製剤治療によってどのように影響を受ける可能性があるか、あるいはどのような点に注意が必要かなどを十分に話し合ってください。必要に応じて、小児アレルギー科などの専門医との連携も考慮される場合があります。
まとめ
アトピー性皮膚炎のお子さんには、ぜんそくやアレルギー性鼻炎といった他のアレルギー疾患を合併しやすい傾向があります。これらの疾患はアトピー性皮膚炎と共通する免疫のメカニズムによって引き起こされる部分があり、IL-4やIL-13といったサイトカインが重要な役割を果たしています。
これらのサイトカインを標的とする生物学的製剤は、アトピー性皮膚炎の皮膚症状だけでなく、合併しているぜんそくやアレルギー性鼻炎の症状にも良い影響を与える可能性があります。
お子さんのアトピー性皮膚炎治療として生物学的製剤を検討される際には、合併症の有無やその症状についても医師に伝え、全体的なアレルギー管理の観点から、最も適切と思われる治療方針について十分に相談することが大切です。既存のぜんそくや鼻炎の治療薬についても、自己判断で変更せず、必ず医師の指示に従ってください。
この情報が、お子さんのアトピー性皮膚炎と合併症の治療について考える上での一助となれば幸いです。治療の選択にあたっては、必ず医師とよく話し合い、お子さんにとって最善の方法を見つけてください。